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欠片を求めて(12)

勤務を終え、病院のエントランスを出た平木の先に植木の縁に腰掛けこちらに手を振る少女。
「平木先生ー」以前と同じ笑顔を見せる。
「こんな所でどうしたの?診察は?ちゃんと行ってるの?」
平木は、一気に質問をする。
少女はめんどくさそうに「そんなことより、ちょと付き合ってよ。」
強引に腕を絡ませ引っ張る。
「一体どこに行くんだよ。それより腕を放してくれよ。」
「恥ずかしがらないの」
可笑しくて仕方がない様子だ。

少女に連れられた先は、病院から少し歩いた先にある古びた教会だ。
もう、日も暮れ始めているので人の気配がない。
「さあ、着いたよ。中に入ろう。」
「ちょっと待った。勝手に入ったらまずいだろ。それに鍵がかかってるはずだし。」
「大丈夫。裏口から入れるから。ここってかなり不用心だよね。」
少女は、クスッと笑う。
平木は、やれやれ困った子だなと言う表情だ。
中に入ってみると、外観とは違い、とても凝った作りになっている。
聖人らしき人物や、天使、宗教とは縁遠い平木にも厳かな気分になる場所だ。
「教会なんて初めて来たけど、何だか神秘的なところだね。」
「ここは、古くて小規模なところだけど、歴史があるところだからね。
私のお気に入りの場所なんだ。」
少女はおもむろにキリスト像の前で跪き首から下げている十字架で祈りを捧げる。
平木は、ただのアクセサリーだと思っていたが本物の信仰心から来る物だったのだ。
神々しさすら感じる祈りに目を奪われる。
「平木先生は、神様は信じる?」
思わぬ質問に戸惑う平木。
「信じないね。医者は目の前の現実が全てだからね。」
「リアリストだなー。奇跡ってほんとにあるんだよ。」
「あったら見てみたいね。」
「もう、子供じゃないんだからムキにならないでよ。」
少女は、微笑する。
「そんなことより、手術はどうするの?受けるんでしょ?」
少女の顔が曇る。
「沢井先生の腕前なら手術は成功する可能性もあるしやるだけの価値はあるよ。」
沈黙する少女。
「何が不満なんだい?このままだと助からないんだよ?」
「運命を受け入れたいだけだよ。それじゃダメなの?」
「運命って。。。死んだら何もかも終わりじゃないか。。。」
力なく言葉を発する平木。そして一言も発しない少女。
長い沈黙だ。
「分かったわよー。手術を受ければいいんでしょ。私だってまだやりたいこと沢山あるからね。」
突然少女が大きな声を出す。
「何だよ急に。」
面食らう平木。
「もう帰ろう。最後にお祈りするから待ってて。」
少女は再び跪く。
微動だにせず熱心に祈りを続ける少女。
少女の意外な一面を見た平木は黙って見守る。
ずいぶん長い。
「まだなの?今度はえらく長いね。」
少女は、返事をしない。どこか様子がおかしい。
平木は、少女に近寄り肩に手をかける。
少女の体が崩れたので抱きかかえる平木。
気を失っている。
声をかけても全く反応しない少女に危機を感じる。
急いで抱き上げ教会を後にした。

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[ 2017/05/05 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

欠片を求めて(11)

「平木先生、大丈夫かい?」
中年男性が心配そうに声をかける。
「え、ボクがどうかしましたか?」
平木は、はっとして返事を返す。
「最近、いつも以上にぼけっとしてるけど調子でも悪いの?」
「ちょっと忙しくて疲れてるだけなので大丈夫ですよ。」
平木は、苦笑いを浮かべる。
「医者が、過労で倒れるなんて縁起でもないから頼むよ。」
「斎藤さんが、退院してから倒れるんで問題ないです。」
「ははは、なら安心して任せられるよ。」
「患者に心配される、頼りない医者ですけどね。」
平木は、微笑を残して回診を終えた。

「平木先生。」
平木が、身支度を終え戦場を退勤しようとしたところに宮が声をかける。
「何かあった?」
振り返り、応える。
「いや、桜井先生が呼んでるよ。」
「何の用だろう。」
「知らないけど、結構重要な話なんじゃないの?」
「気が進まないな。」
顔が引きつる。
「嫌なら断ってみる?その後どうなってもしらないけど。」
「行ってくるよ、雷が落とされないことを祈りながらね。」
「行ってらっしゃい。」
宮が、ニコニコ笑顔で手を振る。

「平木~飲みに行くぞ。」
開口一番、桜井の意外な言葉に緊張していた平木は拍子抜けした。
タクシーで、飲食街に出かける。
桜井のことだから、高級店に行くのかと思いきや、場末の小さな店だ。
店内は、アットホームな雰囲気で皆楽しそうだ。
「お、京子ちゃん久しぶり~。」
「おじさん、ガンガン飲むから適当につまみ持ってきて。」
「あいよ。せっかく顔出してくれたからサービスしとくね。」
席に着くなり、ビールの大ジョッキを美味そうに飲む桜井。
「ずいぶん親しいみたいですけど、どれくらい前から通っているんですか?」
「大学時代からだな。忙しいからあまり来れなくなったが顔は出すようにしている。」
「確か先生は、沢井先生と同じ大学ですよね?」
「ああ、よくあいつをここに連れてきてやってたよ。」
「沢井先生って、どんな人だったんですか?」
「ん、あいつに興味があるのか?」
「いえ、聞いてみただけです。」
「まあ、飲め。あいつの事なら後で詳しく話してやるよ。」
桜井は、大ジョッキを飲み干した。

「だからよ~あいつは当時から生意気でさ、腕がいいから余計に反感食らってたんだよ。今と変わんねーよ。」
大ジョッキ3杯目の桜井。
「お前、ここんとこ様子が変だぞ。」
「すみません。」
「説教してるんじゃねーよ。話を聞いてやるって言ってるんだよ。」
「昔の事を思い出していて、そればかり考えてしまうんです。」
「昔の事って何だよ。」
「医者になった理由です。先生は、何で医者になったんですか?」
「親が医者だったからだよ。開業医で、毎日見てりゃ自然となりたくなるものさ。」
大ジョッキ3杯目を飲み干す桜井。
「ボクは、妹が病気でなくなったのがきっかけなんです。何も出来なかった自分が悔しくて。
妹は、生まれつき心臓が弱く、それが原因でなくなりました。心臓外科を希望したのもその為です。」
桜井は、無言でビールを口にする。
「今も、自分の無力さを痛感して妹の顔が頭から離れません。」
「医者は無力だよ。やれることをやるだけだ。今日は朝まで付き合え。帰らせねーからな。」


[ 2017/03/20 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

欠片を求めて(10)

平木は、脳外科の沢井を訪ねた。
「どうした、こんなところに来て。」
沢井は、いつものクールな表情で平木を迎えた。
「どうしても知りたいことがありまして。ここでは話せないので場所を変えていいですか?」
「コーヒーが飲みたかったからちょうどいい。行こう。」
沢井は、すっと席を立つ。

自販機で二人はコーヒーを買い、中庭のベンチに腰掛ける。
「何が知りたい?」
「先生の患者についてです。ボクには何も出来ませんがどうしても知りたいんです。」
平木の、様子を黙って見つめる沢井。
「お願いします。」
「誰についてだ?」
平木は、これまでのいきさつを沢井に話し出す。
沢井は、表情を崩さず何も言わない。
全てを話し終わって沢井が重い口を開く。
「脳腫瘍だよ。危険な状態だ。」
平木は、言葉が出ない。
「薬物療法が、上手くいっていたんだがな。」
「助からないんですか?」
「手術をすれば可能性はなくはない。だが、彼女がそれを望んでいない。」
「どうしてですか。早く手術しないと。」
平木が、沢井に食って掛かる。
「彼女が、助けを求めたら俺は、全力で手助けする。だが、手術を強制することは出来ない。」
「そんな。。。」
言葉につまる平木。
「医者は、無力だ。だが、一人の人間として、彼女の力になれることはある。」
沢井は、鋭いが優しい目で諭すように平木に語りかける。
「お前が、出来ることを彼女のためにしてやれ。」


[ 2017/03/19 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

欠片を求めて(9)

「また、ぼけっとしてるー。」
宮が、うわの空でいる平木にいつもの調子で声をかける。
「早く、桜井先生の論文の資料まとめないと大変なことになるわよ。」
「ああ。」
平木の、いつもとは違う反応に宮が不審がる。
「どうしたの?何かいつもと違うんだけど、何かあった?」
しばし、沈黙の後
「別に、何もないよ。ちょっとコーヒーを買ってくる。」
宮は、平木の後姿を心配そうに見続けた。

平木は、しばらく少女の姿を見ていない。
ただ来てないだけなのか、それとも・・・
迷った末に平木は、足取り重く脳外科に向かう。
もうすぐ脳外科に着くと言うところで目の前に少女を認めた。
「平木先生、久しぶりー」
眩しいくらいの笑顔だ。
「ちょっと話しようよー。」
平木の、手を引っ張る。
平木は、その手をゆっくりとほどき
「ほんとはボランティアじゃなかったみたいだね。」
少女は、一瞬顔が曇る。
「何だ、ばれちゃったのか。」
イタズラを叱られた子供のような返答だ。
「頭痛が、ひどいから来てるだけだよ。」
「それだけじゃ無いだろ?」
「それだけだよ。」
ぶっきらぼうに答える。
「先生には、関係ないんだからもうこの話は止めて。」
「そう言う訳には、行かないよ。」
「しつこい、さよなら、もう話しかけないで。」
少女は、靴音を高く鳴り響かせて足早に消えていった。




[ 2017/03/12 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

欠片を4求めて(8)

平木は、小児病棟にいるあづみの元に向かった。
皆、何かしらの病気を抱えているのに子供らしさは失っていない。
あづみは、平木に目をやるなり走り寄って抱き着いてきた。
平木は、恥ずかしがりながらも嬉しさでいっぱいだった。
あづみは、とにかくおしゃべりだった。
話したくてうずうずしてるのが手に取るようにわかる。
話の内容は、子供らしい取り留めのないものだ。
手話が、出来る人間は限られるので、ボクに話せるのが嬉しいのだろう。
(そろそろ、時間だからもう行くね。)
(もう、行っちゃうの?)
(ごめん、時間が出来たらまた来るから。)
(絶対だよ?約束だからね?)
あづみは、小指を平木に向けた。
平木は、小指をあづみに絡ませた。

「平木先生が、来てくれて助かりました。あづみちゃんここの所元気がなくて。
私じゃ、手話が上手く出来なくて・・・」
玉木が、申し訳なさそうに下を向く。
「無理もないよ。そう簡単に出来るようにはならないからね。
今度、簡単なことなら教えるよ。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
玉木は、満面の笑顔で答える。
「じゃあ、ボクはこれで」
平木が、立ち去ろうとするのを玉木が引き止める。
「そうだ、前、平木先生が言ってたボランティアの子ってたまに平木先生が話してる女の子の事ですか?」
玉木が、唐突に少女の事を聞いてきた。
「そうだけど、それがどうかした?」
「実は、あの子ボランティアじゃないんですよ。ここの患者なんです。脳外科の看護師に確認しました。」
玉木の、以外すぎる発言に平木は言葉に詰まってしまった。
「どういう関係かは知りませんが、気を付けたほうがいいんじゃないんでしょうか・・・」
玉木は、遠慮がちに言う。
「教えてくれてありがとう。今度、手話の勉強をしようね。」
平木は、何事も無かったように手を挙げて玉木と別れた。
[ 2017/03/04 ] 小説 | TB(0) | CM(0)