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星くずの夜(2.8)

もうすぐ対局が始まる。
本来なら、集中力を高める時間だが武藤には他にやる事があった。
VIPルームに向かう。
美女をはべらせ大騒ぎをしている小池の所だ。
「よう、武藤何しに来た?」
「お前とサシで話がしたくてな。」
小池は、億劫そうに手を振って女達を退出させる。
「で、話とは?」
「また、沢村を引き込んだんだろ?」
何を当然の事をと言う表情だ。
「お前とは、長い付き合いだが随分とこずるい事をするようになったな。」
「俺を、挑発するつもりか?無駄だ止めとけ。」
ニヤっと笑う。
「傲慢で、一匹狼のお前が沢村と組むのが納得行かないだけだ。」
「俺は、負けるのが大嫌いなんだよ。特にお前にだけはな。」
小池から、笑みが消え本来の凄味を出す。
「お前も、美里と組んで打てばいいだろう。」
「例え負けると分かっていても、オレは勝負に対して純粋でいたい。」
「お前のその自信が、たまらなく俺をイラつかせるんだよ。」
沢村が、部屋に入ってきた。
ばつが悪い事この上ない。
「武藤、もう出ていけ。」
小池を無視して武藤は話し出す。
「沢村、オレは勝負師としてお前の事を認めていたがどうやら間違いだったようだな。」
「俺の事を認めていた?だったら何であいつなんですか。」
「武藤、ここまでだ。」
「分かった。オレ達に余計な言葉は不要だな。ただ、打てばいい。」
武藤は、立ち去った。

控室で、静かに目を開く美里。
勝負の前に瞑想をするのは美里のルーティーンだ。
澄み切った表情を見る限り、いつも通りの麻雀が打てることだろう。
対局場に向かって部屋を出ると、その先に観月が立っていた。
「美里さん、調子はどうですか?」
「何の用?」
そっけない返事をする。
「これだけの大勝負ですからね。美里さんが本来の力を発揮できるか心配でして。」
「余計なお世話だ。」
美里は脇をすり抜けようとする。
その手首を観月は掴んだ。
「お守りをお渡しします。」
紙ナプキンで折ったバレリーナを美里に手渡す。
「昔、武藤さんにも贈った物です。美里さんに気に入ってもらえるとうれしいのですが。」
美里は、バレリーナを凝視ししたまま動かない。
「がんばってくださいね。」
観月は、微笑みと共に消えて行った。
美里も、対局場に向かった。
後に残されたのは、握りつぶされ寂しそうなバレリーナだけだった。







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[ 2016/08/21 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

星くずの夜(2.7)

ごくありふれた朝食。
美里は、寝ぼけ眼で黙々と口に入れる。
「いつも遅くまで夜更かししてるからよ」
母親がやれやれといった調子だ。
「だってー、今ゲームで忙しいんだもん。」
「加奈ちゃん家に、迷惑かけるから程々にしなさいよね。」
「あまり気乗りはしないんだけど、付き合いってのがあるのよ。」
「嫌ならやらなければいいのに。」
あっけらかんと言う調子だ。
「そう言う訳にはいかないの。」
「はいはい、来年は受験なんだからしっかり頼むわよ。」
「はーい、いってきまーす。」
美里は、元気よく席を立った。

某コーヒーチェーン店で、紙ナプキンでバレリーナを折る美里。
「あんたが、それしてる時って何かいつもと違うんだよねー。」
「そう?」
「うん。」
「昔、折ってもらって以来ゲン担ぎに折るようにしてるんだよね。
ちょっとしたお守りみたいなものだよ。」
「芸達者な知り合いがいるのね。」
「うん。凄い人だよ。」
「何をするのか知らないけど、いつもの美里に戻ってよね。」
「はーい、それじゃあいつも通り加奈の家にいるってことでよろしくねー。」
伝票を手に取り美里は手を振り店を出る。

ヘブンズドアは、いつも以上の大賑わいだ。
例の大物政治家以下、著名人も数多く見受けられる。
派手な演出でメインイベントの前にこれでもかと言うくらいに盛り上げる。
狂騒とはこのことを言うのだろう。
この世の天国か地獄かは知らないが、武藤の姿は見えない。
武藤は、レストランにいた。
正面には観月がいる。
「武藤さん、大勝負の前に随分と余裕ですね。」
「お前の真意が知りたくてな。」
「何を知りたいんですか?」
「オレを、引っ張り出して何をしたいのかだ。」
「言ったはずですよ?私はただ楽しみたいだけです。」
観月はいつもの微笑みを浮かべる。
「武藤さんの望み通りの展開じゃないですか。何が不満なんですか?」
「オレは、あの時以来、都合が良すぎるものは疑うようにしている。」
「いい心がけですね。」
「沢村をそそのかしたのはお前だろ。」
「沢村さんは、あなたに複雑な感情を持っていましたからね。
ほんの少し、彼の本音に語りかけただけです。」
「今回も、小細工を弄してそうだな。」
「さあ、それはどうでしょう。」
観月は、紙ナプキンをいじりながら答える。
「相変わらず器用だな。」
「昔、あなたに差し上げた物ですが、いりますか?」
「そんな昔のことなど覚えてないな。」
「そうですか。素敵なバレリーナなんですけどね。」
観月は残念そうに答える。


[ 2016/08/19 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

星くずの夜(2.6)

上階にある高級レストランで大量のステーキをたらふくたいらげる大柄な男がいる。小池だ。
「こんなところに呼び出して何の用だ?」
よくそこまで食べれるなと、あきれ顔の沢村。
「まあ、座れ。」
渋々席に着く沢村。
「お前も何か頼むか?」
「必要ない。」
「そうか。なら前置きは抜きにして、沢村、俺と組め。」
沢村の表情が強張る。
「認めたくないが、俺たちは、あいつらより僅かに劣る。勝つために共同戦線を張るのは当然の戦略だ。」
「断る。俺は、お前の力を借りなくてもあの人を倒す。」
「それを出来ないことは、お前が一番分かっているはずだ。武藤に勝ちたいんだろ?だったら、あの時みたいに俺の言うことを聞け。」
沢村は言葉が出ない。
「分け前は半々だ。文句はないだろ?」
「金はいい。俺が欲しいのは勝利だけだ。」
「決まりだな。」
小池はニヤリと笑った。

仰向けに天井を見つめながら、ベットに横になる武藤。
決勝のメンバーは奇しくもあの時と同じだ。
あの時と・・・

オレは、どうしても美里と真剣勝負がしたかった。
どんな場でもいい。
お互いの全てを出し切れれば。
そして都合よく、最高の場所で最高の相手と対局が出来るようになり、オレの、勝負師としての誇りを賭けて万全の状態に持って行った。
オレと美里は、一打、一打にお互いの思いを乗せて打ち続けた。
勝敗を越えた、オレ達だけにしか分からない聖域だ。
オーラス
オレは、美里に僅かながらリードを保ってトップだった。
5ピンを切ればテンパイ。
だが、5ピンはダマで張っている沢村の当たり牌。
オレは、粘り強く回し打ちをする。
ところがだ、小池が切った5ピンに沢村は全く反応しなかった。
オレの読み違いだったようだ。
次順、オレは5ピンを手牌から切った。
「ロン」
沢村が発した・・・

武藤はまどろみから目を覚ました。
冷蔵庫の中からミネラルウオーターを取りだし口にする。
高層階から見える東京の夜景は、星の輝きを曇らせる。


[ 2016/08/03 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

星くずの夜(2.5)

予選も後半に入り大部淘汰されてきた。
残っているものは海千山千の曲者たちだ。
武藤には、予選で最大の難関が待ち受けていた。
今までの相手とは格が違う。
一瞬の隙も許されない、息詰まる戦いになるだろう。
だが、武藤はいつもと変わらず冷静な面持ちだ。
目の前の猛者に武藤は語りかける。
「八木沼、自分より強いやつとは打たないんじゃなかったのか?」
「ふっ、スポンサーの意向には逆らえんさ。」
予選最高の対局が始まった。

序盤からお互い真っ向勝負の殴り合いだ。
リーチが入っても、無筋を切り互いに一歩も引かない我慢比べだ。
少しでも弱気になると一気に流れを持って行かれる。
ギリギリの攻防が続く中、他の二人はお客さん状態で全く参加させてもらえない。
予選は、半荘2回の合計点で決まる。
どちらか一回を大勝すれば問題ないが、一流のプロ同士の対局でそう都合のいいことは起こらない。
ガードの上から強打を浴びせ、相手の心が折れるまでひたすら殴り続ける。
極限状態の中、辛うじてリードを奪った武藤が初戦を勝利する。

休憩を入れずに、2戦目が始まる。
武藤はわずかなリードを守りたい。
しかし、勝負事は少しでもぬるい手を打つとあやが出来、形勢が変わってしまう。
自分にも、相手にも厳しい一打を打ち続ける武藤。
お互いに限界が近い。
来るしさで息が詰まりそうになる。
その時だ、ポロッと出たドラに八木沼がチーをした。
一見、チャンスを掴んだかのように見える鳴きだが、武藤はそうは見なかった。
ついに、我慢が出来ずにガードを下げたのだ。
この局八木沼に安手で上がられたが武藤には勝機が見えた。
一度でも、折れれば肝心なところで迷いが出る。
そこに、武藤は賭けた。
オーラス、点差は僅かながら武藤がリードを奪われている。
一戦目の勝ち分とほぼ同等。
この一局で全てが決まる。
1000点でもいい。先に上がった方が勝者となる。
お互いスピード重視で手を進める。
八木沼は食い仕掛けをした。
露骨な手だが、勝ちに行く厳しい手だ。
このまま勝ちきろうとする八木沼に、待ったをかける武藤のリーチが入った。
その一巡目、八木沼の手が止まる。
捨て牌に困ってしまったのだ。
役牌を鳴き、上りに一直線だった八木沼の掴んだ牌は東。
東はションパイで、危険極まりない。
いつもの八木沼なら平然と東を切っただろう。
だが、心の奥底に武藤との我慢比べに逃げた弱気な心が迷いを生んだ。
迷った末に切ったのは2ピン。
武藤の現物であり、東の単騎待ちに変えたのだ。
数順後、武藤は4マンをツモ上がった。
倒した手牌には、東が暗刻で揃っていた。
静かに席を立った八木沼が武藤とすれ違いざまにささやいた。
「観月には気を許すなよ」

死力を尽くした対局の疲れもあったが予選終了を見守るために壁際にいる武藤の前に
観月が現れる。
「流石ですね。見事に八木沼さんを退けました。」
「お前の思い通りにはなかなか行かないと言うことだ。」
「あなたは、世界一強い麻雀打ちですが、少々甘いところがあります。
刺客として送り込みましたが彼には荷が重すぎましたね。」
「お前のやることに一々口を出す気はない。」
予選の終了を待っている二人に終了のアナウンスが告げられた。
決勝は、武藤、美里、沢村、小池の4人に決まった。
「予定通りのメンバーですね。」
「何を考えているのかは知らないが、オレの邪魔はするな。」
「武藤さん、私はただ楽しみたいだけですよ。」
観月はうれしそうに微笑んだ。












[ 2016/08/02 ] 小説 | TB(0) | CM(0)