FC2ブログ

2019 07123456789101112131415161718192021222324252627282930312019 09






星くずの夜(2.1)

透き通るような清流で男が釣りをしている。
やる気があるのかないのかぼけーっとしている。
「あんたまた来てるのか。」
老人は、やれやれとあきれた調子だ。
「若いのに、のんきなもんだねー。」
「こうやってるとなーんも考えなくてすむんだよ。なーんもね・・・」

古びた田舎の温泉街。
その一角の雀荘で男女4人がにぎやかに麻雀を打っている。
そこに若い男がやってきた。
「あー、むっちゃんおかえりー。」
水商売風の女が語りかける。
「今日も釣れなかったんだろ?」
タバコをふかしながら中年男がニヤつく。
「魚はオレと一緒で気まぐれなんだよ。」
けだるそうに答える。
こちらに背を向けていたもう一人の女が振り返る。
!!!!むっちゃんと呼ばれる男は驚きの表情を見せる。
「あー、むっちゃん、こんな田舎に似つかわしくない美人を見て驚いてるぞ。」
中年男がひやかす。
「ちょとー美人ならいつも見てるでしょ。」
水商売風の女が冗談交じりに応える。
「確かに名前だけは美人のフジ子ちゃんは見てるけどね。」
中年男がゲラゲラ下品に笑う。
「このオヤジいつか本当に殺す・・・」
フジ子は顔をひきつらせる。

「初めまして。観月といいます。」
確かに美人だがありきたりな容貌だ。
だが、人のよさそうなニコニコとした笑顔がたまらなく魅力的だ。
「観月ちゃんはさー、一週間ほど仕事でこっちにいるらしいよ。」
あごひげを蓄えた男がなれなれしく話す。
「こちらの方は麻雀は打たれないのですか?」
観月があごひげ男に尋ねる。
「あー、むっちゃんは打てないからいつも後ろで見てるだけなんだよねー。覚えろって言ってもめんどくさいの一点張りでね。」
「そうなんですか。いつも麻雀を見ているんですね。わたしも打つより見てるほうが好きなんですよ。」
むっちゃんに向かって、ニコっとほほえむ。
「今日はもう帰るわ。」
むっちゃんは店を後にした。


気持ちのいい日差しの中、相も変わらず釣れない魚を待ち続けるむっちゃん。
「何か用かい?」
少し離れた背後に観月が立っている。
「こんなに離れていてもわかるものなんですね。」
「田舎には不釣り合いな都会の匂いがするからな。それよりこんなところに何しに来た?」
「近々、大きな仕事があるんですよ。その為にここで一仕事しなくていけなくなりまして。
ただ、難しい案件なのでほとほと困っています。」
「大きな仕事ねー。」
むっちゃんは、興味ないと言った感じだ。
「私は仕事をやるからには、完璧にこなしたいんですよ。その為にはどうしてもあなたのお力が欲しいのです。」
「今更、オレがしゃしゃり出るまでもないだろう。他に打ち手はいくらでもいる。」
「そう言う訳にも行かないんですよ。あの子の相手を任せられるのはあなた以外にいません。」
むっちゃんの顔つきが一瞬変わった。
「まだしばらくここに滞在するので気が向いたら連絡してださい。
武藤さん、魔女狩りを終わらせる責任があなたにはあるんじゃないのですか?」

日も暮れ始めた中、武藤はまだ川を眺めている。
「若いのに難しい顔をしとるな。」
いつも顔を合わせる老人だ。
武藤の隣に座りこむ。
しばし、無言が続き武藤から切り出した。
「なあ、じいさんやり残して後悔してることってあるか?」
何を急に言い出すんだという表情をする老人。
しばし、間を置いて「そりゃあ、いっぱいあるさ。仕事ばかりで家族のことを顧みなかったからな。
一人になって初めて分かったよ。本当に大切なものは何なのかとね。」
寂しそうな表情だ。
「あんたは、まだ若い。失くしたものの大きさに気づいてから取り戻そうとして、わしのようになるな。」
二人は一言も発せずその場を後にした。

3人の男たちが卓に着き、観月がニコっと武藤を迎えた。
いつもの、のほほんとした雰囲気とは異なりビリビリとした空気が伝わってくる。
「むっちゃん、あの人たちなんなの?」
田舎の雀荘に不釣り合いな男たちに不安そうなマスター。
「ちょっと麻雀打つだけだから大丈夫だよ。」
「え、むっちゃん麻雀打てたの?」
すっとんきょうな声を出すマスター。
「武藤さん、この3人を相手に勝負してもらいます。あなたの腕が錆びついていないか試させてもらいます。」
武藤は、軽い足取りで席に着き対局が始まった。
3対1の圧倒的に不利な状況で武藤はどう打つのだろう?
周りの人間は興味津々だ。
淡々と場は進む。
何事もないように淡々と。
特に見せ場もないような対局が続く中ただ一人、武藤の後ろで見守っていた観月だけは心の中で唸っていた。
(凄い読みだ。まるで全てが透けて見えているかのようだ。衰えを全く感じさせない。)
一定のリズムで牌をツモり、切る。
リーチがかかろうが、何事もなかったかのように変わらない。
徐々に差が付き焦りの色を隠しきれない3人の男たち。
武藤の親リーが入った。
一人がかなりへこんでいて無理が出来ない。
ほかの二人も手が出来てなくオリ気味だ。
数順のち武藤がツモった。
メンタンピンツモ、ドラ1で満貫。裏が乗れば跳満で一人が飛ぶ。
武藤は席を立ち、「カンが取り戻せてない。東京に戻ったらすぐに相手を用意しろ。」
「分かりました。」
観月がニコッとほほえむ。
「おい、ちょっと待て。何席を立ってるんだよ。早く戻れ。」
苛立たしげに男が声を荒げる。
「早く裏めくれよ。」
もう一人の男もだ。
「お前ら裏くらい読め。」
武藤は振り向きもせず店を出た。
あっけにとられる3人の男たち。
「おい、聞いたか?裏くらい読めだとよ。」
「そんなもん分かるわけねーだろー。」
「何かっこつけてばっくれてんだよ。」
大笑いの3人の中、観月はそっと裏ドラをめくり、そしてニコッと満面の笑みを浮かべた。 


スポンサーサイト



[ 2016/06/16 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://betabetao.blog.fc2.com/tb.php/68-65f16624