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星くずの夜(2.4)

運命の出会いと言うやつがあるなら、オレにとってはあの日なんだろう。
ある賭場で、師匠の門田さんが代打ちを打つという噂が流れた。
半信半疑だったがその場に駆け付けた。
確かに、門田さんはいた。
しかし、卓に着いていたのは一人の少女だった。
「門田さん、お久しぶりです。」
「充、久しぶりだね。」
人のよさそうな初老の男が笑顔で答えた。
「あの子は?」
「私の、弟子だよ。今日が初めての真剣勝負だ。まだ、13だがね。」
「若すぎる。子供じゃないですか。」
「充だって、15で始めたんだ。大して変わらんさ。」
オレは、当時を思い出したが、今にして思えばかなり無茶をした。
この子に耐えられるだろうか・・・

少女は、颯爽としこれが真剣勝負なのかと思うほど清々しい。
周りをいかついやつらに囲まれているのに、どこか別の空間にいるようだ。
天から清流が流れるようなよどみのない打ち筋。
対局相手は、訳も分からず打つ手がことごとく咎められる。
最早、勝負ではない。
皆、少女がいかにして勝つか期待している。
対局が終わると、周りの熱気が最高潮に達した。
次々に、少女に声をかける。
人を惹きつける天性の才があり、正に天才と呼ぶに相応しかった。

「充、あの子をお前に預ける。私には、もう手に余る。」
「オレは、人に物を教えるような人間ではないですよ。」
気にはなるが本当に教えるのが下手なんだ。
少女が人を掻き分けこちらにやって来た。
「勝ったよ」無邪気な笑みで答える。
「美里、この人がお前の兄弟子の充だ。これからは充に教わるんだ。」
「門田さん、いきなりそんなこと言われても困ります。」
オレは、困惑した。
「充さん、よろしくお願いします。」
真直ぐな瞳にどうにも参ってしまった。

オレは、何も教えなかった。ただ、後ろで見せていただけだった。
美里は真綿に水が吸い込むと言う表現がピッタリなくらいに全てを身に付けた。
オレは、それがうれしかった。
初めて、理解者を得たからだ。
あいつを妹のように思い、強くなって欲しかった。
だが、あいつが強くなるほどオレの中の衝動が抑えられなくなる。

そんな時だった。
不思議な奴がオレの前に現れた。
そいつはいつも笑顔をたたえていたが、どこか謎めいた女だった。
女と話していると、こちらの心を全て読まれているかのような錯覚に陥る。
今まで、逆はあってもそんなことは一度もなかった。
ある時女は言った。
「私は、死ぬときにあー楽しかったと言って死にたいんです。
武藤さん、あなたはどうですか?」
「それは、誰だってそうだろう。」
「なら、自分の心を偽らないほうがいいですよ?」
「・・・」
「あなたの中の怪物を解き放ってみませんか?」
「・・・」

No.16武藤様対局場へお越しください。
アナウンスにオレは現実に引き戻された。
今はただ進もう。
その先に何があっても進むのみ。
武藤は対局場に向かった。



















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[ 2016/07/26 ] 小説 | TB(0) | CM(0)

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